アントニオ猪木の闘言(トーゴン)

第76回 金賢姫元工作員

 去る3月11日、北朝鮮による拉致被害者、田口八重子さん=拉致当時(22)=の兄、飯塚繁雄さん(70)と、長男、耕一郎さん(32)が、金賢姫(キム・ヒョンヒ)元北朝鮮工作員(47)と韓国・釜山市内で面会した。

 もちろん俺も金元工作員が、田口さんから日本人化教育を受けた、大韓航空機爆破事件の実行犯だって話は知ってるけど、それ以上の詳しいことはなにも知らない。ただ、どういった経緯でその面会が実現したのかわからないけど、俺からすれば、このタイミングでよかったのかな、と思わないわけじゃない。それを証拠に、日本に比べて韓国の報道はひややかでしょう。アメリカだって、まだノーコメントだもんな。それでもオバマ大統領は対話政策を取るらしいね。きっとブッシュ前大統領とは違った意味での期待はできるんだろうけど、まだ中身がよく見えてこないよな。

 北朝鮮問題っていうのは、前から言ってる通り、なにを優先事項にするか、それを考えながら取り組まなければならない。根本的なことを考えると、日本はもう戦争ができない。まずこれは絶対に動かせないわけだから、それを前提にどんなアクションを起こせるか。そうなると自ずと答えは見えてくるはずなんだよ。つまり、平和に向けての外交が優先でしょう。ズバリ言えば、ここでも何度も言ってきたように、国交の正常化を最優先に考えていかないと。それを優先しなければ、結局は拉致問題なんて一向に解決には向かっていかないんじゃないかと思う。

 当然、それぞれの被害者の立場でいえば、「そんな話はあり得ない」と言うかもしれないけど、結果的にはあり得ない話こそが、拉致問題の解決につながる道なんじゃないのかな、と俺は思う。だからよく考えた時に、今回の面会っていうのは、果たして根本的な解決法になっていくのか。少しだけ進展したように見えて、本質的な解決につながっていかなかったら、それこそ本末転倒だからね。

 まずは、なぜここまでニュース報道に取り上げられても、北朝鮮問題がほとんど進展しないのか。そこを考えていかないと。要はメディアに乗せられてる部分もあるんじゃないのかな。というか、もっとズバリ言ってしまえば、残念なことに北朝鮮は日本なんかほとんど相手にしてないんだろうから。

 そうは言っても彼女は面会の際の会見で、日本政府に対して拉致問題における解決策を話してたよ。
「日本政府が北朝鮮の自尊心を潰さず、心を動かせる方法を模索し続ければ、奇跡が起こり得る」
 あれは本当にそうだと思う。思えば、94年に金日成前大統領が亡くなった時、「もう北朝鮮は崩壊するだろう」なんて言われたこともあったけど、未だに北朝鮮は北朝鮮のまま存在してるでしょう。それはキチンと検証してみたらわかるけど、単なる正論だけを並べて交渉し続ければ本質的な解決につながるわけじゃないんだぜ。北朝鮮に関しては、とにかく敵対的なことを言わないと、その時点で擁護してるように思われるけど、そんな当たり前の理屈を並べてたって、あの国に通用するはずがない。そんなに甘くないんだよ、ンムフフフ。

構成)Show大谷